2025/08/07 コラム
私立学校法の改正
私立学校法改正の目的
2023年に私立学校法が大幅に改正され、2025年4月1日より施行されました。
これは、私立学校の不祥事や運営の不透明さに対する社会の懸念を受け、学校法人のガバナンス(組織統治)体制を強化するためのものです。
今回の改正では、役員の選任・解任、組織構成、監査体制、意思決定の仕組みに至るまで、制度全体が見直されました。
「意思決定機関」は理事会であり、評議員会は「諮問機関」であるというこれまでの基本的な枠組みは維持しつつ、評議員会等による理事会に対するチェック機能を高めています。
私立学校法改正のポイント
理事・監事の選び方が変わります
これまでは、理事の選任手続きは、寄附行為(学校法人ごとのルール)により各学校が自分で定めることができました。
改正後、理事は理事選任機関という選任組織によって選ばれることになります。その際には、理事選任機関は、事前に評議員会の意見を聴くことが必要です。
理事選任機関の構成や運営は寄附行為で定めることとされており、理事選任機関に評議員を含めるなどの工夫により、理事会からの中立性を確保することが望ましいと考えられています。
また、これまで監事は、評議員会の同意を得て理事長が選任していました。改正後、監事は評議員会の決議によって選任される形に改められ、理事会からの独立性が強化されました。
理事と評議員の兼職は禁止に
これまでは、理事会と評議員会の連携を重視し、理事と評議員を兼ねる人物が必ず1人以上必要とされていました。
しかし、今回の改正では、この兼職が全面的に禁止されます。これは、学校法人の中で「執行する側(理事)」と「監視・チェックする側(評議員)」を明確に分け、それぞれの役割が適切に機能するようにするためです。
また、これまで、評議員の定数は「理事の定数の2倍を超える数」でしたが、改正により「理事の定数を超える数」に引き下げられました。もっとも、理事よりも多い人数の評議員によって理事会を監視するため、評議員の定数は理事の定数を超えるよう定められています。
任期に上限を設定
これまでは、役員である理事や監事、評議員の任期は、各学校が寄付行為により定めていましたが、役員等が長年固定化されてしまうこともガバナンス不全の一因とされてきました。
そこで今回の改正では、理事の任期は最長4年、監事や評議員は最長6年と定められました。再任は可能ですが、一定の周期で見直しが行われます。
また、理事会や評議員会の構成についても、外部の人材を必ず含めるなどの要件が設けられています。
親族等の制限
これまでは、役員である理事、監事について、近親者等が1人を超えて含まれてはならないと定められていました。
改正により、役員近親者についての制限が強化されるとともに、これまで近親者等に関する制限のなかった評議員にも制限が設けられるようになりました。
また、評議員会について、職員である評議員の数は評議員総数の1/3まで、理事・理事会が選任した評議員の数は評議員総数の1/2までとする制限が追加されました。評議員の中に、学校職員や、理事会が選任した者が多いと、理事会に対する監督機能が十分に発揮されなくなるおそれがあるためです。
評議員会の役割拡大
評議員会は諮問機関であるという従来からの枠組みは維持しつつ、今回の改正では監視機能が強化されました。
評議員会は、理事選任機関が機能しない場合に理事の解任を選任機関に求めたり、監事が機能しない場合に理事の行為の差止請求・責任追及を監事に求めたりすることができるようになるなど、チェック機能を実効的に発揮できる権限が付与されました。
また、大学などの大規模法人では、解散・合併・重要な寄附行為の変更について、理事会の決議に加えて評議員会の決議も必要となりました。
財務や会計のチェック体制を強化
大学などの大規模法人では、これまでの監事による内部監査に加えて、会計監査人(公認会計士や監査法人)による監査が義務付けられました。
大学などの大規模法人では、法人が抱えるリスクや責任の所在を明確にするため、内部統制システムの整備も法律上の義務として定められました。
罰則の整備
役員等による特別背任、目的外の投機取引、贈収賄及び不正手段での認可取得についての罰則が整備され、不祥事への抑止力が高まりました。
まとめ
今回の私立学校法改正は、学校法人の「透明性」「公正性」を高めるための大きな一歩です。理事会と評議員会が互いにけん制しながらも建設的に協力し、不祥事の予防と質の高い教育運営を両立できる体制づくりが進められます。
すべての私立学校法人にとって、信頼されるガバナンスの実現がこれまで以上に求められています。学校問題についてお困りの際には、ひびき総合法律事務所に是非ご相談ください。