2025/11/20 コラム
刑法等の改正
刑法等改正のポイント
2022年6月13日に刑法等が改正され、段階的に施行が進められ、2025年6月1日に全面施行となりました。刑事弁護活動に影響を及ぼす改正内容について、ポイントをご紹介します。
侮辱罪の法定刑引上げ
侮辱罪は、具体的な事実を示さずに、相手の人格や人柄をけなしたり、見下したりするような発言や発信を、公の場で行った場合に成立する犯罪です。
これまでは、侮辱罪の法定刑は、拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)または科料(千円以上1万円未満の金銭罰)でした。
しかし、インターネット上での誹謗中傷が深刻化し、侮辱行為に対する抑止力を高めるため、法定刑が大幅に引き上げられました。
改正により、侮辱罪の法定刑は、1年以下の懲役・禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料となりました(2022年7月7日施行)。
新たに懲役刑・禁錮刑・罰金刑が加えられたことで、これまで刑法上最も軽い刑罰の一つであった侮辱罪は、より重い責任を問われる罪となりました。
被疑者に対する社会内処遇の規定の整備
改正により、保護観察所長は、勾留中の被疑者で検察官が罪を犯したと認めた者について、その同意を得て釈放後の住居や就業先などの生活環境の調整ができるようになりました。
また、処分保留で釈放された被疑者に対しても、更生緊急保護という生活環境の支援を行うことができるようになりました(2023年12月1日施行)。
更生緊急保護とは、生活物資の供与や一時宿泊場所の提供、職業支援などを行う制度です。
これらの改正によって、刑事処分が決まる前段階での更生支援が拡充され、住居や就労の安定を図ることにより、再犯防止や社会復帰の円滑化が期待されています。
拘禁刑の創設(懲役・禁錮の廃止)
これまでは、身体拘束を伴う刑罰として、懲役と禁錮の2種類がありました。
懲役は、刑務作業の義務があり、禁錮は、刑務作業の義務がないものでした。
しかし、実際には禁錮受刑者の多くが志願して刑務作業をしており、作業の有無で懲役と禁錮を分ける実益は薄れていました。
また、受刑者の改善更生のためには、受刑者の特性に応じて、作業・指導・教育など柔軟な処遇を実施する必要があると指摘されていました。
改正により、懲役・禁錮が廃止されて拘禁刑が創設され、拘禁刑の受刑者は、改善更生を図るため、刑法上の義務として、必要な作業を行い、必要な指導を受ける義務を負うことになりました(2025年6月1日施行)。
受刑者に対する再犯防止指導としては、薬物依存や性犯罪、暴力などの問題に応じた専門的なプログラムの実施が想定されています。
再度の執行猶予の条件の拡大
これまでは、一度執行猶予付きの判決を受けた人が、その猶予期間中に再び罪を犯した場合、次に言い渡される刑が「1年以下の懲役または禁錮」で、しかも特に酌量すべき情状がある場合でなければ、再び執行猶予を付けることはできませんでした。
改正により、刑の上限の要件が「2年以下の拘禁刑」に引き上げられました(2025年6月1日施行)。
例えば、判決での刑期が1年6か月であっても、裁判官の判断により再び執行猶予を付け、社会内での更生を促すことが可能になります。
保護観察付執行猶予中の再度の執行猶予
これまでは、保護観察(犯罪をした人が社会内で更生できるよう、保護司等が指導・支援を行う制度)付きの執行猶予判決を受けた人が、その猶予期間中に再び罪を犯した場合、再び執行猶予を付けることはできず、実刑となっていました。
改正により、保護観察付執行猶予期間中にさらに罪を犯した場合でも、執行猶予を付けることができるようになりました(2025年6月1日施行)。
事案によっては、社会内処遇を継続することが望ましいケースもあり、再度の執行猶予を付けられる余地が広がったといえます。
執行猶予期間経過の効果に関する規定の新設
これまでは、執行猶予付きの判決を受けた人が、その猶予期間中に再び罪を犯した場合でも、新たな事件の有罪判決が確定する前に執行猶予期間が満了すれば、元の執行猶予は取り消されませんでした。
そのため、執行猶予期間中に罪を犯して起訴されても、新たな事件の判決確定までに前刑の猶予期間が終われば、前の刑は執行されず、新たな事件の刑だけを受ける結果になっていました。
こうした仕組みについては、被告人側が新たな事件の判決確定を引き延ばすことで、前刑の執行猶予の取消しを免れることは不当であるとの批判がありました。
この問題を踏まえ、改正により、執行猶予期間中に再び罪を犯し、その猶予期間中に起訴された場合には、新しい事件についての判決前に前刑の執行猶予期間が経過していたとしても、前刑の執行猶予を取り消すことができることになりました(2025年6月1日施行)。
まとめ
刑法改正により、侮辱罪の法定刑が引き上げられ、拘禁刑が創設されました。
また、再度の執行猶予が付けられる範囲は広がりましたが、再度の執行猶予を得るためのハードルが高いことに変わりはなく、犯罪類型に応じた適切な弁護活動が必要となります。
刑事事件についてお困りの際には、ひびき総合法律事務所に是非ご相談ください